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学芸ノート 【第6回】 海軍報国号献納飛行機関係資料


 戦時中、民間(団体や個人)から集めたお金を軍に供出し、献納された軍用機のことを「献納機」といいます。昭和7年(1932)の陸軍「あいこく1号」から始まりましたが、同18年(1943)頃から、朝日新聞の献納運動キャンペーンなどもあって、瞬く間に全国的に広がりました。陸軍は愛国号、海軍は報国号と呼ばれ、献納者などにちなむ名が命名式で付けられました。

 高岡の地酒「日本晴」を造る荒野商店(現・日本晴酒造合資会社)は、嘉永年間(1848〜53)に高岡百姓町(現・横田町)に創業した老舗です。昭和19年(1944)、7代目当主・荒野権四郎氏は大の愛国家で、自らの酒蔵を処分してまで飛行機を献納しました。

 その関係資料4件5点が平成16年、権四郎氏の孫・吉治氏より当館に寄贈されました。
 ここでは簡単に、これらの資料を紹介したいと思います。





◆1.報国号飛行機命名式記念写真
報国号飛行機命名式記念写真
 この写真は、海軍に献納した飛行機の命名式の記念に海軍省が発行したものです。命名式の当日に参列者へ配られたものと思われます。
 飛行機と戦艦が写っていますが、よく見ると合成写真のように思われます。下に「報国第二八六六号(荒野日本晴号)【艦上爆撃機】 海 軍 省」とあります。

 これには、当時の物資不足がうかがい知れる、質の悪い紙で作られた袋が付属しています。表には「昭和十九年/(旭日旗)報国号飛行機命名式記念写真/海軍省」と印刷されています。
 袋の裏面左下には、「山端写真科学研究所」とあります。この写真はこの研究所が合成したものと思われます。この研究所は、従軍カメラマンの山端庸介(やまはた ようすけ,1917〜66)と関係があるのでしょうか。山端は被爆直後の長崎を訪れ、その様相を撮影した写真家として知られています。





飛行機献納申出書(控) ◆2.飛行機献納申出書(控)

 この資料は荒野権四郎氏が海軍に飛行機の献納を申し出た時の書類です。原本は提出されたと思われるので、これはその控えです。
 昭和19年(1944)2月付で、海軍大臣・嶋田繁太郎(しまだ しげたろう,1883〜1976)に宛てられています。
 文面は「一、艦上爆撃機 壱機/此ノ(この)代価金 拾万円也/右ノ通リ献納致度候(いたしたくそうろう)ニ付御採納相成度(あいなりたく)/候也」とあります。
 当時の10万円とは、現代のいったいいくらほどになるのでしょうか?「教えて!にちぎん」HPを参考に考えて計算してみます。
 「企業物価戦前基準指数」というものを基準に考えると、平成17年(664.9)は昭和19年(2.319)の約286.7倍の物価であったことになります。それを単純に10万円に掛けてみますと、約28,670,000円(!)、およそ3千万円弱にもなりました。ですが、この計算の際には色々なモノサシがあり、しかも現在と大きく違い、規制の激しい戦時中という特殊な情勢ですので、簡単には比較できません。ですが、権四郎氏の並々ならぬ愛国心が感じられます。




報国号飛行機命名式に関する依頼書
◆3.報国号飛行機命名式に関する依頼書

 この公文書(金地人第9810号ノ82)は、昭和19年の4月8日付で、金沢地方海軍人事部長より権四郎氏に宛てられています。
 それによると、命名式は海軍省主催で、同年同月27日13時30分より高岡市博労町国民学校(現高岡市立博労小学校)において開催することが決定したので、それを通達しています(雨天の際は同校講堂において開催予定)。
 さらに併せて、命名式に関わる「打合会」を、同15日に高岡市役所において行うのでその出席を依頼しています。




献納飛行機命名式諸費割当金受領証 ◆4.献納飛行機命名式諸費割当金受領証

 この資料は、とても薄いペラペラの紙にガリ版で刷られています。同年の5月12日付で、荒野権四郎氏に宛てられています。差出人は書いてありませんが、印が捺されており、印文はかすれていますが「富山県高岡市役所印」となんとか読めます。
 命名式の諸費割当金である85円87銭(上記の計算でいくと現在の約24,600円に相当)の受領証です。




 陸軍愛国号献納機調査報告という詳細な調査がまとめられたホームページによると、現在のところ富山県からは愛国号が9機、報国号が12機の計21機の献納が確認できます(うち高岡市からは荒野氏の他、「高岡市民」から愛国号1機の計2機のみ)。
 しかし、この「荒野日本晴号」の命名式の際、6団体6機の報国号が命名されたとの情報もあり、はっきりしません。調査は継続したいと思いますが、このほかにも飛行機献納の事例があるものと思われます。


※文中の旧字体は新字体に直しました。
(学芸員 仁ヶ竹亮介)

学芸ノート【第10回】海軍報国号献納飛行機関係資料・追記(陸軍愛国号について)
その後にいただいた新たなご教示による追記です。
あわせてご覧ください。(2012年3月)





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原本作成日:2006年12月24日;更新日:2015年3月28日